細胞の死に方は2つある ── なぜ片方だけ炎症が起きるのか
🔎 病理のきほん 全8回の第1回:体の中で起きている変化に名前をつけていくシリーズの1回目です。病理の言葉は暗記の山に見えますが、どこで線が引かれているかが分かると、覚える数はぐっと減ります。今回は細胞の死に方から。変性・萎縮・循環障害・炎症は、後の回で1つずつ扱います。
わん助
細胞が死ぬのって、
ぜんぶ体にとってわるいことでしょ? 病気とかケガとかで細胞が死んで、そこが赤く腫れて痛くなる。だから細胞の死はぜんぶ
同じ「大損害」だよね!
にゃるき
半分あたりで、半分はずれにゃ。細胞の死に方は
2つあって、片方は
体が予定して起こしている死なんだにゃ。しかもその2つは、見分けるための決め手があるにゃ。まずは1問いくにゃ。
まずは問題
アポトーシスの記述として誤っているのはどれか。
- 1. 核クロマチンが濃縮する。
- 2. 代表例として、オタマジャクシがカエルになる時の尻尾の消失がある。
- 3. プログラム細胞死とも呼ばれる。
- 4. 細胞膜および細胞質の変化からはじまる。
- 5. 炎症反応は基本的に誘発されない。
わん助
ぼく2番! だってオタマジャクシの尻尾が消えるのは、
ただの成長じゃない。病気でもケガでもないのに、それを
細胞の死の例にするのはおかしいと思うんだ。
にゃるき
惜しいにゃ。「病気じゃないのに死ぬの?」と引っかかったところまでは、ちゃんと考えた証拠にゃ。
正解は4番です。変化が細胞膜と細胞質からはじまるのは、もう一方の死に方=壊死(ネクローシス)のほう。アポトーシスの形態的変化は核からはじまります。
そして2番は本当のことです。オタマジャクシがカエルになるとき、尻尾の細胞は病気でもケガでもなく、体の予定どおりに死んで消えます。これを生理的にプログラムされた細胞死といいます。体をつくるために、細胞に死んでもらう場面があるのです。なお「プログラム細胞死」という別名(3番)も正しい呼び名です。ただし、その名前に引きずられて「予定された死だけ」と覚えないこと ── 次がまさにそこです。
細胞が傷ついたとき、体に起きること
傷害を受けた細胞に起きることは、大きく2つです。ひとつが変性 ── 細胞や組織に異常な物質が現れたり、ふだんある物質が大量にたまったりすること。もうひとつが細胞の死です。そして死のほうが、さらにアポトーシスと壊死(ネクローシス)に分かれます。
ここで大事なのは、アポトーシス=正常なときだけ起こる、ではないということ。生理的にプログラムされた細胞死のほかに、ウイルスや薬物により誘導されるものもあります。病気の場面でもアポトーシスは起こるのです。「予定された死」と「事故の死」は、起きる場面ではなく、死に方の中身で分かれているのです。
2つの死に方は、どこが違うのか
アポトーシスは核からはじまります。核(核クロマチン)が濃く固まり(核濃縮)、こわれて(核崩壊)、細胞は縮んで小さな粒に分かれます。この粒がアポトーシス小体で、顕微鏡で確認できる目印です。これをマクロファージ(食べて片づける係の細胞)などがまるごと処理するので、細胞の中身は外に出ません。
壊死(ネクローシス)は細胞膜と細胞質からはじまります。細胞は縮むのではなく膨らみ、やがて膜が破れて中身が外へこぼれ出ます。ATPの枯渇によって起こる細胞死は、この形態をとりやすくなります。ATPは細胞が動くためのエネルギーですから、血が届かなくなった組織で起こる死は、まさにこちらです。染めたときに細胞質の赤みが強く出ること(好酸性)も、この死に方の目印になります。
決め手は「炎症が起きるかどうか」
2つを分ける決め手がここです。アポトーシスによる細胞死では炎症反応は基本的に誘発されません。いっぽうネクローシスで細胞が崩壊すると、周囲に明らかな炎症反応が誘発されます。
理由は図のとおりです。細胞の中身は、外にあってはいけないものの詰め合わせ。それが漏れれば体は「異常が起きた」と受け取り、白血球を呼び集めます。こうした有害なものに対する体ぐるみの防御反応が炎症です。逆にアポトーシスは、こぼす前に包んで片づけるので体は騒ぎません。後始末のしかたが違う、というのが2つの死の本当の差なのです。
にゃるき
だから
アポトーシスは体にとって損害にならないにゃ。わん助が言った「死=大損害」は、
こぼした死のほうだけの話だったにゃ。同じ死でも、
後始末ができているかどうかでここまで違うにゃ。
わん助
そっか!
こっそり片づけるのがアポトーシス、こぼしちゃうのがネクローシスだ。だから炎症が起きるかどうかで見分けられるんだね。
「ぜんぶ大損害」じゃなかったんだ ── 体がちゃんと段取りして終わらせている死もある。死んだ細胞の数じゃなくて、
中身が漏れたかどうかを体は見てるんだ!
覚え方のコツ
- はじまる場所でおぼえる:アポトーシスは核から/ネクローシスは細胞膜と細胞質から。今日の正解4番がここです。
- 形は正反対:縮んで粒になる(アポトーシス小体)/膨らんで破れる。
- 迷ったときの決め手は炎症:起きない/起きる。ここに戻れば必ず分かれる。
- アポトーシス=正常のときだけ、ではない:ウイルスや薬物によって誘導されるものもある。
看護でどう活きるか
| 血流の途絶 |
「昨日まで元気だったのに、急に後ろ足が立たなくなって」── 猫の大動脈血栓塞栓症では、詰まった先の組織へ血が届かなくなる。エネルギーが尽きた細胞はネクローシスに向かうので、止まっている時間の長さがそのまま組織の運命になる。急を要する理由がここにある |
| 腫れの意味 |
炎症は、こぼれた中身に体が反応しているサイン。ただし点滴の刺入部の腫れは、輸液そのものが血管の外へ漏れていることが多く、細胞の中身とは別。どちらにしても「そこで何かが起きている」合図なので、そのまま様子を見ずに報告する。動物が留置部を気にしはじめたときも同じ。「お注射のところ、腫れていませんか」は飼い主さんへの確認にそのまま使える |
| 抗がん剤 |
薬物によって誘導されるアポトーシスは、抗がん剤の効き方の柱。細胞をこわして回るのではなく、細胞に自分から静かに終わってもらう方向をねらうものが多い。「この薬、がん細胞を溶かすんですか」と聞かれたときに、溶かすのではなく静かに終わってもらうのだと答えられる |
にゃるき
次回は、細胞ひとつではなく
組織まるごとが死んだときの話にゃ。壊死には形のちがいがあって、そこに名前がついているにゃ。ただ、
名前が多く見えるだけで、ほんとうの分かれ道はうんと少ないにゃ。「ぜんぶ別もの、丸暗記だ」と思ったまま行くと、
名前の数に押しつぶされるにゃよ。
にゃるき
今日のわん助の「病気じゃないのに死ぬの?」は、いい引っかかり方にゃ。
死=わるいこと、という思い込みを自分で疑えたから、予定された死という考え方が入ってきたにゃ。
わん助
うん!
アポトーシスは核から・炎症なし、ネクローシスは膜と細胞質から・炎症あり! アプリでアポトーシスの問題を解いてくるね〜!
※ ここに参考書のリンク枠を挿入予定
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