壊死のかたち ── なぜ名前がこんなに多いのか
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病理のきほん 全8回の第2回:
第1回では細胞ひとつの死に方を見ました。今回は
組織まるごとが死んだときの話です。名前がいちばん多いところなので、覚える数を減らすことから始めます。
わん助
ここ、
名前が多すぎだよ! 凝固壊死、乾酪壊死、液化壊死、融解壊死、それに壊疽……
ぜんぶ別のものなんでしょ。5つ丸暗記するしかないよね。ぼくもうムリ!
にゃるき
その丸暗記、
半分はいらないにゃ。5つ並んで見えるのには、ちゃんと
カラクリがあるにゃ。どこで枝が分かれているかを先に見つけると、覚える数はぐっと減るにゃ。ほどいていくにゃ。
まず、硬くなるか、溶けるか
第1回では、細胞ひとつの死に方を2つに分けました。今回はもう一段上、組織全体が死んでしまったときの話です。1個の細胞が静かに片づけられるのとは違い、まとまった範囲がいちどに死ぬので、見た目にはっきりした変化が出ます。その見た目の違いに名前がついている ── これが名前の多さの正体です。
組織全体が死んでしまう場合、通常は壊死が起こります。その壊死は、特徴によって2つに分けられます。分かれ目は「硬くなるか、溶けるか」です。
凝固壊死は、壊死した部分が硬くなる(凝固する)タイプ。そして乾酪壊死は、この凝固壊死の呼び名のひとつです。ゆで卵の白身がかたまるのに近いイメージで覚えると、名前と見た目が結びつきます。結核の病巣では、中心部に乾酪壊死とよばれる凝固壊死巣ができ、そのまわりを肉芽腫が囲みます。凝固壊死と乾酪壊死を、別のタイプとして横に並べて覚えないこと ── ここが最初の引っかかりどころです。
液化壊死は、壊死した部分が急速に液状になるタイプ。融解壊死も同じものの別名です。こうなるのは、その組織が蛋白分解酵素をたくさん含んでいるから。死んだ細胞のかたちを保つはずのタンパク質が、その場で分解されてしまうのです。とくに脳でよくみられ、脳軟化が代表的な病態です。
先に全体の並びを見ておきます。下半分(壊疽から下)はこのあと説明します。
そのあとに加わるのが「壊疽」
わん助
えっ、じゃあ
壊疽は? 硬くなるのと溶けるのに続く、
3つ目のタイプでしょ。けっきょく3つ覚えるんじゃん……
壊死した組織に、さらに強い二次的な変化が加わった状態を壊疽といいます。多くの場合、壊死した部分に腐生細菌が繁殖して形成されます。
つまり壊疽は3つ目の壊死のタイプではありません。硬くなったのであれ溶けたのであれ、壊死が起きたあとの話です。図の縦のつながりがそれを示しています。種類は3つ、分かれ目は水分とガスです。
| 湿性壊疽 | 壊疽した組織に水分が多量に含まれる状態 |
| ガス壊疽 | ガスを産生する細菌により、病変部に空気が大量に含まれる状態 |
| 乾性壊疽 | 壊死組織から急速に水分が失われた状態(ミイラ化) |
わん助
なんだ、
5つ横に並んでたんじゃないんだ! 呼び名がダブってるのが2組と、
そのあとに起きたことが1つ。ぼくが覚えるのは「硬くなるか、溶けるか」と「そのあと何が加わったか」だけでいいんだね。
にゃるき
そのとおりにゃ。
名前の数と、覚えることの数はちがうにゃ。病理の言葉は、並べて暗記すると多く見えるけど、
どこで枝分かれしているかを先に押さえると、うんと減るにゃ。
ついでにほどいておく ── 梗塞と、そのあとの炎症
名前でつまずきやすいものを、もう2つ並べておきます。ひとつは梗塞。血管が詰まって血が届かなくなり、その先の組織で壊死が起こった状態を指します。梗塞はどこで、なぜ起きたかを指す言葉で、今日見た「硬くなるか、溶けるか」という見た目の分け方とは別の物差しです。血のめぐりの回で改めて扱います。
もうひとつは炎症。壊死が起きた場所では、そのまわりに炎症が起こります。第1回で見た「中身が漏れる」が起きるからです。壊死のまわりが赤く腫れて熱をもつのは、体が片づけにきている最中だということ。まっさきに駆けつけるのが好中球です。
1問チャレンジ
壊死に関する記述として誤っているのはどれか。
- 1. 凝固壊死は乾酪壊死ともよばれる。
- 2. 液化壊死は脳でみられやすい。
- 3. 壊疽は、凝固壊死・液化壊死に続く3つ目の壊死のタイプである。
- 4. 乾性壊疽では壊死組織から急速に水分が失われる。
- 5. ガス壊疽はガスを産生する細菌によって起こる。
1正しい。凝固壊死=乾酪壊死。別名を横に並べて2つ覚えないこと。
2正しい。蛋白分解酵素が多いため溶ける。代表が脳軟化。
3これが誤り。壊疽は壊死が起きたあとに加わった二次的な変化で、3つ目のタイプではない。
4正しい。水分が急速に失われてミイラ化する。
5正しい。病変部に空気が大量に含まれる。
覚え方のコツ
- 別名を横に並べない:凝固壊死=乾酪壊死、液化壊死=融解壊死。覚える型は4つではなく2つ。
- 分かれ目は硬いか、溶けるか:硬くなるのが凝固壊死、溶けるのが液化壊死。溶けるのは脳(脳軟化)。
- 壊疽は「そのあと」:壊死に強い二次的な変化が加わった状態。多くは腐生細菌の繁殖による。
- 壊疽の3つは水分とガスで分かれる:水分が多い=湿性、ガスがたまる=ガス、水分が失われる=乾性(ミイラ化)。
看護でどう活きるか
| 記録の言葉 |
「乾いて硬くなっています」「湿ってぐずぐずしています」── 同じ「壊死しています」でも、見た目をこのことばで書き分けておくと、翌日の担当者が広がったのか、止まったのかを比べられる。タイプを言い当てる必要はなく、見えたままを書くのが記録の精度になる |
| 末端の変化 |
「足先が黒くなっていて、さわると硬いです」── 血流が途絶えた先の組織は、水分が失われて乾いて硬くなる形(乾性壊疽)をとりやすい。第1回で見た猫の大動脈血栓塞栓症は大動脈から後肢へ向かう分岐部で詰まるため、はじめは後肢の皮膚が白っぽく末端が冷たくなり、戻らなければ足先にこの形で残ることがある |
| におい |
「きのうより、においが強くなっています」── 湿り気のある壊疽では、壊死した部分で細菌が繁殖している。それは思い過ごしではありません。においの変化は、そのまま報告してよい所見です |
にゃるき
次回は逆に、
死なずに小さくなる変化にゃ。萎縮には理由が7つあって、そのうち1つだけが「病気じゃない萎縮」にゃ。「使わないから小さくなるんでしょ」で止まっていると、
残り6つを見落とすにゃよ。
にゃるき
今日のわん助は、いきなり「ムリ!」と言えたのがよかったにゃ。
多すぎると感じたところは、たいてい整理されていないだけにゃ。名前の列を見たら、
同じものはどれかをまず探すにゃ。
わん助
覚えることは2つだけ!
硬くなるか溶けるか、そのあと何が加わったか。アプリで壊死の問題を解いてくるね〜!
※ ここに参考書のリンク枠を挿入予定
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