薬と作用する対象(病原体など)の組み合わせとして、最も適切なものはどれか。
「感染症の薬」とひとくくりにされがちですが、相手にする病原体ごとに、まったく別の薬が用意されています。
| 抗菌薬 | 細菌が相手 ── この記事の主役 |
|---|---|
| 抗真菌薬 | 真菌(カビ・酵母)が相手。イトラコナゾール、テルビナフィンなど |
| 抗ウイルス薬 | ウイルスが相手。インターフェロンなど |
| 駆虫薬 | 寄生虫が相手。回虫・条虫の駆虫薬、ノミ・マダニの駆除薬 |
わん助が選んだ「抗菌薬:寄生虫」は相手を取り違えているということです。細菌に効く薬は、寄生虫には効きません。
抗菌薬の系統は、ばらばらに決まっているわけではありません。細菌という1個の生き物の、どの部分を狙うかで分かれています。攻めどころは大きく4つです。
細胞壁は細菌の丈夫な外側の殻です。殻をつくれないまま増えようとした細菌は、形を保てずに壊れます。
ここに大事な例外があります。マイコプラズマという細菌は、もともと細胞壁をもちません。だからβラクタム系は効かず、②の仲間(ドキシサイクリンなど)を使います。攻めどころが無い相手には、その系統は効かない ── これも同じ理屈です。
リボソームはタンパク質をつくる部品です。ここを止められると、細菌は必要な部品をつくれません。アミノグリコシド系・マクロライド系・テトラサイクリン系の3つがここに集まっているので、いちばん混ざりやすいところです。
細菌が分裂して増えるには、DNAをコピーする必要があります。キノロン系(ニューキノロン系ともいいます)は、その作業を妨げます。代表はエンロフロキサシン、オルビフロキサシンです。
サルファ剤とトリメトプリムは、葉酸をつくる工程の別々の場所を同時に止めます。2か所で止めるので、合わせて使うと効果が高まります。
| 細胞壁 | 動物の細胞には細胞壁がない。細菌にしかない部品なので、狙っても動物の細胞は傷つかない |
|---|---|
| リボソーム | 動物も持っているが形が違うので、細菌のほうにくっつきやすい薬を選んである。ただし完全には分けきれず、あとで出るクロラムフェニコールが骨髄に影響するのは、この「似ているところ」が残っているため |
| DNAのコピー | DNAをほどく酵素の形が動物と細菌で違う |
| 葉酸 | 細菌は自分でつくるが、動物は食事から取り込む。だから工程を止められても動物は直接には影響を受けにくい |
この「相手にだけあるものを狙う」考え方があるから、抗菌薬は動物に飲ませても比較的安全に使えます。細胞壁を狙うβラクタム系がとくに安全性が高いのも、動物の細胞に細胞壁がまったくないからです。
抗菌薬とその主たる作用機序の組合せとして、適切でないものはどれか。
正解は4番です。セファロスポリン系(セフェム系ともいいます)はβラクタム系の仲間なので、正しくは細胞壁をつくらせないはたらきです。「細胞膜の脱分極」は別のはたらき方で、ここが入れ替えられていました。
4つの攻めどころがそのまま出題されています。図の①〜④さえ頭に入っていれば、名前を1つずつ暗記していなくても解けます。
抗菌薬の名前には、系統ごとの共通のパーツが入っていることが多く、手がかりになります。
| 〜シリン | ペニシリン系:アモキシシリン、アンピシリン |
|---|---|
| セファ〜/セフ〜 | セファロスポリン系(セフェム系):セファレキシン、セファゾリン、セフォベシン |
| 〜フロキサシン | キノロン系:エンロフロキサシン、オルビフロキサシン |
| 〜サイクリン | テトラサイクリン系:ドキシサイクリン |
ここまでは素直です。問題は次です。
| マクロ ライド系 |
エリスロマイシン・タイロシン・アジスロマイシン |
|---|---|
| アミノ グリコシド系 |
ゲンタマイシン・ネオマイシン・ストレプトマイシン(マクロライド系と同じ場所を攻めるが、毒性がまったく違う) |
| リンコ マイシン系 |
リンコマイシン・クリンダマイシン(マクロライド系と場所が同じで、一緒に使うと邪魔をし合う) |
| 別グループ | バンコマイシンは耐性菌の切り札(細胞壁をつくらせない) |
「〜マイシン」で終わる名前を見たら、そこで判断を止めずに、頭のほうを見るのがコツです。とくにマクロライド系とアミノグリコシド系は同じ場所を攻める仲間なのに、副作用の重さがまったく違うので、取り違えると現場では大ごとになります。
①の細胞壁を狙うグループがβラクタム系です。動物病院でもっともよく使われるので、中身をもう少し見ておきます。
大事なのが細菌の側の反撃です。細菌のなかにはβラクタマーゼという酵素をつくるものがいて、βラクタム系の薬を切って壊してしまいます。せっかく薬を入れても、ハサミで切られては効きません。
そこで登場するのがクラブラン酸です。それ自体に強い抗菌力はありませんが、βラクタマーゼのはたらきを止めます。アモキシシリンとの合剤がよく使われるのは、このためです。
βラクタム系にはこの2つのほかにカルバペネム系などもあります。効く範囲がきわめて広く、最後に出てくる「切り札」がこれです。大きな家族のなかに切り札がいると覚えてください。
抗菌薬にはもうひとつ、大事な分け方があります。殺菌的と静菌的です。
| 殺菌的 | 細菌を死滅させる。βラクタム系、アミノグリコシド系、キノロン系 |
|---|---|
| 静菌的 | 細菌の増殖を抑える。代表はテトラサイクリン系。マクロライド系やクロラムフェニコールもこちらとされる |
よく誤解されますが、「静菌的な薬は弱い薬」ではありません。細菌が増えるのを止めて体の免疫が片づける時間をかせぐのが仕事です。
どちらの薬も、ゼロにたどりつくまでには時間がかかります。とくに静菌的な薬は「増えるのを止めているだけ」の時間が長いので、途中で見た目がよくなっても、まだ菌は残っています。ここで薬をやめるとどうなるか ── それが次回のテーマです。
系統でまとまるのは作用のしかただけではありません。副作用も系統ごとにセットで覚えられます。
| アミノ グリコシド系 |
腎臓と耳(聴覚・平衡覚)への毒性が強い(最強はネオマイシン)。飲ませても消化管からほとんど吸収されないので、全身に効かせるときは注射。外用でも使われるが、大きな傷・やけど・ただれた皮膚からは吸収されることがある |
|---|---|
| テトラ サイクリン系 |
ドキシサイクリン。胎子期・新生子期に投与すると歯(エナメル質)が永久に褐色になる。骨の成長を抑えることもあり、妊娠中・授乳中と幼い動物では注意 |
| キノロン系 | エンロフロキサシン。若齢の犬で関節障害の報告があり12か月齢未満の犬には投与しない。痛み止め(NSAIDs)との併用でけいれんの報告もある |
| クロラム フェニコール |
犬猫で貧血(骨髄への影響)が問題となることがある |
| ペニシリン系 | アレルギー反応に注意 |
| マクロライド系 | 消化器症状が出ることがある |
| ST合剤 (サルファ剤) |
食欲不振、下痢、嘔吐。乾性角結膜炎(涙が減る)の報告があり、長く使う症例では目のうるおいも見る |
| 飼い主説明 | ドキシサイクリンは牛乳やチーズと一緒に飲ませない(くっついて吸収されなくなる)。「飲みにくいから牛乳に混ぜる」は逆効果になる |
|---|---|
| 投与中の観察 | 下痢・嘔吐。皮膚・口・腸にすむ常在菌(悪い菌の住みつきを邪魔してくれる菌)のバランスが乱れるのが理由のひとつ。抵抗力が落ちるとこの常在菌自身が感染症を起こし、これを日和見感染という。ほかに皮膚の発赤やかゆみ、アミノグリコシド系では尿量も見る |
| 動物の種類 | 常在菌の乱れ方は種で重さがまったく違う。ウサギ・ハムスター・モルモットでは、抗菌薬(とくにリンコマイシン系)で命に関わる消化器障害を起こすことがある。「犬猫で使えるから大丈夫」は通用しない |
| 年齢の確認 | キノロン系(12か月齢未満の犬には使わない)・テトラサイクリン系(歯と骨)は幼い動物で注意。受付での年齢確認が手がかりになる |
次回は「抗菌薬を正しく使う ── 薬剤耐性菌をつくらないために」。今回さいごに出た途中でやめるとどうなるかから始めます。抗菌薬は実習でも国家試験でも必ず出会う薬にゃ。名前ではなく、攻めどころで並べるにゃ。