にゃるき
にゃるき先生の解説コーナー
愛玩動物看護師国家試験合格に向けて一緒に頑張るにゃー!!

抗菌薬の系統 ─ 細菌のどこを攻めるかで分かれる

⏱ 約18分 薬のはなし2026-08-17 公開
🔎 深掘り回 第5弾:薬のシリーズです(前回はステロイドを急にやめてはいけない理由)。抗菌薬は名前が長くて似たものばかりですが、細菌のどこを攻めるかという1本の軸を通すと、ばらばらの名前が一気に並びます。
わん助
抗菌薬の勉強してるんだけどさ、アモキシシリン、ゲンタマイシン、エンロフロキサシン、ドキシサイクリン…名前が長すぎて全部おなじに見えるよ〜!でも大丈夫、ぜんぶ「ばい菌をやっつける薬」なんだから、まとめて覚えちゃえばいいんでしょ?
にゃるき
その気持ちはよ〜くわかるにゃ。でも抗菌薬は細菌のどこを攻めるかで仲間分けされていて、その仲間ごとに効く相手も、気をつける副作用も違うんだにゃ。まずは問題からいくにゃ。

まずは問題

薬と作用する対象(病原体など)の組み合わせとして、最も適切なものはどれか。

わん助
ぼく5番にした!だって「」も「」も、どっちも目に見えない小さいやつでしょ?抗菌薬駆虫薬って字も似てるし、まとめてやっつけてくれるんだと思ってた…!
にゃるき
そこ、いちばん最初につまずくところにゃ。名前が似ているから混ざるんだけど、相手がまったく別の生き物なんだにゃ。ここを分けるところから始めるにゃ。

大前提:相手が違えば、薬も違う

「感染症の薬」とひとくくりにされがちですが、相手にする病原体ごとに、まったく別の薬が用意されています。

抗菌薬 細菌が相手 ── この記事の主役
抗真菌薬 真菌(カビ・酵母)が相手。イトラコナゾール、テルビナフィンなど
抗ウイルス薬 ウイルスが相手。インターフェロンなど
駆虫薬 寄生虫が相手。回虫・条虫の駆虫薬、ノミ・マダニの駆除薬

わん助が選んだ「抗菌薬:寄生虫」は相手を取り違えているということです。細菌に効く薬は、寄生虫には効きません。

にゃるき
用語をひとつ。「抗生物質」はもともと微生物がつくり出した物質のことにゃ。人工的につくったものも含めた広い呼び方が「抗菌薬」だにゃ。

抗菌薬は「細菌のどこを攻めるか」で分かれる

抗菌薬の系統は、ばらばらに決まっているわけではありません。細菌という1個の生き物の、どの部分を狙うかで分かれています。攻めどころは大きく4つです。

細菌1個のようす リボソーム DNA 葉酸をつくる ← この太い外枠が細胞壁 ① 細胞壁をつくらせない βラクタム系 ペニシリン系・セファロスポリン系 ② タンパク質をつくらせない アミノグリコシド系・マクロライド系 テトラサイクリン系 ③ DNAをコピーさせない キノロン系 エンロフロキサシンなど ④ 葉酸をつくらせない ST合剤(サルファ剤) トリメトプリムとの合剤

① 細胞壁をつくらせない ── βラクタム系

細胞壁は細菌の丈夫な外側の殻です。殻をつくれないまま増えようとした細菌は、形を保てずに壊れます。

ここに大事な例外があります。マイコプラズマという細菌は、もともと細胞壁をもちません。だからβラクタム系は効かず、②の仲間(ドキシサイクリンなど)を使います。攻めどころが無い相手には、その系統は効かない ── これも同じ理屈です。

② タンパク質をつくらせない ── 3つの系統が集まる

リボソームはタンパク質をつくる部品です。ここを止められると、細菌は必要な部品をつくれません。アミノグリコシド系・マクロライド系・テトラサイクリン系の3つがここに集まっているので、いちばん混ざりやすいところです。

③ DNAをコピーさせない ── キノロン系

細菌が分裂して増えるには、DNAをコピーする必要があります。キノロン系(ニューキノロン系ともいいます)は、その作業を妨げます。代表はエンロフロキサシン、オルビフロキサシンです。

④ 葉酸をつくらせない ── ST合剤(サルファ剤)

サルファ剤とトリメトプリムは、葉酸をつくる工程の別々の場所を同時に止めます。2か所で止めるので、合わせて使うと効果が高まります。

にゃるき
じつは攻めどころは、もうひとつあるにゃ。細胞膜にゃ。ポリミキシンBは細菌の細胞膜をこわして効くにゃ。ただし腎臓への毒性が強いので、いまは点眼薬や点耳薬など局所にだけ使われているにゃ。

なぜ、細菌にだけ効くのか

わん助
あれ、待って。ワンちゃんの体も細胞でできてるんでしょ?ってことは、抗菌薬ってワンちゃんの細胞も一緒に壊しちゃわないの…?
にゃるき
わん助、それはとてもいい質問にゃ!そこが抗菌薬のいちばん大事な発想なんだにゃ。答えは「細菌だけが持っているもの・細菌だけがやっていることを狙っているから」にゃ。
細胞壁 動物の細胞には細胞壁がない。細菌にしかない部品なので、狙っても動物の細胞は傷つかない
リボソーム 動物も持っているが形が違うので、細菌のほうにくっつきやすい薬を選んである。ただし完全には分けきれず、あとで出るクロラムフェニコールが骨髄に影響するのは、この「似ているところ」が残っているため
DNAのコピー DNAをほどく酵素の形が動物と細菌で違う
葉酸 細菌は自分でつくるが、動物は食事から取り込む。だから工程を止められても動物は直接には影響を受けにくい

この「相手にだけあるものを狙う」考え方があるから、抗菌薬は動物に飲ませても比較的安全に使えます。細胞壁を狙うβラクタム系がとくに安全性が高いのも、動物の細胞に細胞壁がまったくないからです。

わん助
4つの箱、おぼえた!これでもう名前を見ればどの箱かわかるよ。だって名前が似てれば仲間でしょ?かんたんじゃん!

2問目 ── ここが今日の山場

抗菌薬とその主たる作用機序の組合せとして、適切でないものはどれか。

わん助
え〜っと…2番かな?だってアミノグリコシド系マクロライド系が、両方おなじ「タンパク質合成阻害」になってるよ。ぼく、「〜マイシン」がつく薬はぜんぶ同じ仲間だと思ってたんだけど、ゲンタマイシンとエリスロマイシンって、別のグループなの!?
にゃるき
あー、それはみんなやるにゃ。名前の一部が同じでも、系統は別ということがあるんだにゃ。順に整理していくにゃ。

正解は4番です。セファロスポリン系(セフェム系ともいいます)はβラクタム系の仲間なので、正しくは細胞壁をつくらせないはたらきです。「細胞膜の脱分極」は別のはたらき方で、ここが入れ替えられていました。

4つの攻めどころがそのまま出題されています。図の①〜④さえ頭に入っていれば、名前を1つずつ暗記していなくても解けます

名前から系統を見分けるコツ ── と、その落とし穴

抗菌薬の名前には、系統ごとの共通のパーツが入っていることが多く、手がかりになります。

〜シリン ペニシリン系:アモキシシリン、アンピシリン
セファ〜/セフ〜 セファロスポリン系(セフェム系):セファレキシン、セファゾリン、セフォベシン
〜フロキサシン キノロン系:エンロフロキサシン、オルビフロキサシン
〜サイクリン テトラサイクリン系:ドキシサイクリン

ここまでは素直です。問題は次です。

にゃるき
わん助がひっかかった「〜マイシン」だけは、系統を教えてくれないにゃ。系統をまたいで使われている言葉なんだにゃ。
マクロ
ライド系
エリスロマイシン・タイロシン・アジスロマイシン
アミノ
グリコシド系
ゲンタマイシン・ネオマイシン・ストレプトマイシン(マクロライド系と同じ場所を攻めるが、毒性がまったく違う)
リンコ
マイシン系
リンコマイシン・クリンダマイシン(マクロライド系と場所が同じで、一緒に使うと邪魔をし合う)
別グループ バンコマイシンは耐性菌の切り札(細胞壁をつくらせない)

「〜マイシン」で終わる名前を見たら、そこで判断を止めずに、頭のほうを見るのがコツです。とくにマクロライド系とアミノグリコシド系は同じ場所を攻める仲間なのに、副作用の重さがまったく違うので、取り違えると現場では大ごとになります。

わん助
わかった!おしりじゃなくて、頭を見るんだ。ゲンタ、ネオ、エリスロ、アジスロ…うしろの「マイシン」はみんな同じだから、そこを見ても何も決まらないんだね。

βラクタム系はいちばん大きな家族

①の細胞壁を狙うグループがβラクタム系です。動物病院でもっともよく使われるので、中身をもう少し見ておきます。

βラクタム系 共通点:細胞壁をつくらせない ペニシリン系 アモキシシリン アンピシリン セファロスポリン系 セファレキシン・セファゾリン セフォベシン 細菌の側の対抗手段と、その対策 βラクタマーゼ 細菌がつくる、薬を切るハサミ この菌にはアモキシシリンなどが 効かなくなる 止める クラブラン酸 ハサミのはたらきを止める アモキシシリンと合わせて 効かせられるようにする

大事なのが細菌の側の反撃です。細菌のなかにはβラクタマーゼという酵素をつくるものがいて、βラクタム系の薬を切って壊してしまいます。せっかく薬を入れても、ハサミで切られては効きません。

そこで登場するのがクラブラン酸です。それ自体に強い抗菌力はありませんが、βラクタマーゼのはたらきを止めます。アモキシシリンとの合剤がよく使われるのは、このためです。

わん助
そっか!クラブラン酸は菌をやっつける役じゃなくて、ハサミを押さえる役なんだ。ボディガードみたいだね!

βラクタム系にはこの2つのほかにカルバペネム系などもあります。効く範囲がきわめて広く、最後に出てくる「切り札」がこれです。大きな家族のなかに切り札がいると覚えてください。

殺菌と静菌 ── 「殺す」だけが仕事ではない

抗菌薬にはもうひとつ、大事な分け方があります。殺菌的静菌的です。

殺菌的 細菌を死滅させる。βラクタム系、アミノグリコシド系、キノロン系
静菌的 細菌の増殖を抑える。代表はテトラサイクリン系。マクロライド系やクロラムフェニコールもこちらとされる

よく誤解されますが、「静菌的な薬は弱い薬」ではありません。細菌が増えるのを止めて体の免疫が片づける時間をかせぐのが仕事です。

多い ゼロ 細菌の数 時間 投与開始 指示された期間の終わり 静菌的:増えるのを止めて、 体の免疫が片づけるのを待つ 殺菌的:菌そのものを死なせる どちらも、指示された期間を守って初めてゼロにたどりつく

どちらの薬も、ゼロにたどりつくまでには時間がかかります。とくに静菌的な薬は「増えるのを止めているだけ」の時間が長いので、途中で見た目がよくなっても、まだ菌は残っています。ここで薬をやめるとどうなるか ── それが次回のテーマです。

系統ごとに「気をつけること」が決まっている

系統でまとまるのは作用のしかただけではありません。副作用も系統ごとにセットで覚えられます。

アミノ
グリコシド系
腎臓と耳(聴覚・平衡覚)への毒性が強い(最強はネオマイシン)。飲ませても消化管からほとんど吸収されないので、全身に効かせるときは注射。外用でも使われるが、大きな傷・やけど・ただれた皮膚からは吸収されることがある
テトラ
サイクリン系
ドキシサイクリン。胎子期・新生子期に投与すると歯(エナメル質)が永久に褐色になる。骨の成長を抑えることもあり、妊娠中・授乳中と幼い動物では注意
キノロン系 エンロフロキサシン。若齢の犬で関節障害の報告があり12か月齢未満の犬には投与しない。痛み止め(NSAIDs)との併用でけいれんの報告もある
クロラム
フェニコール
犬猫で貧血(骨髄への影響)が問題となることがある
ペニシリン系 アレルギー反応に注意
マクロライド系 消化器症状が出ることがある
ST合剤
(サルファ剤)
食欲不振、下痢、嘔吐。乾性角結膜炎(涙が減る)の報告があり、長く使う症例では目のうるおいも見る
にゃるき
アミノグリコシド系をよく読んでほしいにゃ。飲ませても腸から入っていかないから、全身に効かせたい時は注射なんだにゃ。塗り薬でもよく使うけれど、傷やただれた皮膚からは入ってしまう。「外用だから安心」とは言い切れないのがこわいところにゃ。

覚え方のコツ

看護でどう活きるか

飼い主説明 ドキシサイクリンは牛乳やチーズと一緒に飲ませない(くっついて吸収されなくなる)。「飲みにくいから牛乳に混ぜる」は逆効果になる
投与中の観察 下痢・嘔吐。皮膚・口・腸にすむ常在菌(悪い菌の住みつきを邪魔してくれる菌)のバランスが乱れるのが理由のひとつ。抵抗力が落ちるとこの常在菌自身が感染症を起こし、これを日和見感染という。ほかに皮膚の発赤やかゆみ、アミノグリコシド系では尿量も見る
動物の種類 常在菌の乱れ方は種で重さがまったく違う。ウサギ・ハムスター・モルモットでは、抗菌薬(とくにリンコマイシン系)で命に関わる消化器障害を起こすことがある。「犬猫で使えるから大丈夫」は通用しない
年齢の確認 キノロン系(12か月齢未満の犬には使わない)・テトラサイクリン系(歯と骨)は幼い動物で注意。受付での年齢確認が手がかりになる
にゃるき
最初にわん助が言った「名前が長すぎて全部おなじに見える」、あれは本音として正しいにゃ。でも細菌のどこを攻めるかという軸を1本通しただけで、アモキシシリンもゲンタマイシンもエンロフロキサシンも、ちゃんと別の場所に並んだにゃ。系統がわかれば、副作用も使い方も一緒についてくる。よく最後まで走ったにゃ!
わん助
うん!ぜんぶ4つの箱に入れればいいんだね。ぼく、これから薬の名前を見たら「この子はどこを攻めるタイプかな?」って考えるよ。あと「〜マイシン」にはだまされない!アプリで抗菌薬の問題、探して解いてくる〜!
※ ここに参考書のリンク枠を挿入予定
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関連ページ

次回は「抗菌薬を正しく使う ── 薬剤耐性菌をつくらないために」。今回さいごに出た途中でやめるとどうなるかから始めます。抗菌薬は実習でも国家試験でも必ず出会う薬にゃ。名前ではなく、攻めどころで並べるにゃ。