にゃるき
にゃるき先生の解説コーナー
愛玩動物看護師国家試験合格に向けて一緒に頑張るにゃー!!

抗菌薬を正しく使う ── 薬剤耐性菌をつくらないために

⏱ 約20分 薬のはなし2026-08-19 公開
🔎 深掘り回 第6弾:薬のシリーズです(前回は抗菌薬の系統 ─ 細菌のどこを攻めるかで分かれる)。前回の最後に出た途中でやめるとどうなるかから始めます。抗菌薬は「どれを選ぶか」と同じくらい、どう使うかが問われる薬です。
わん助
抗菌薬の系統はバッチリ覚えたよ!ってことはさ、いちばん強くて、効く範囲がいちばん広い薬を最初から使えば、相手がどんな菌でも一発で治るじゃん。ケチらずいい薬を出してあげるのが、いちばん親切ってもんでしょ?
にゃるき
その気持ち、よーくわかるにゃ。でも実はまったく逆なんだにゃ。いい薬から順に使っていくと、いざという時に使える薬がなくなる。まずは問題からいくにゃ。

まずは問題

薬剤耐性菌の発生を防ぐための抗菌薬の慎重使用に関する記述として、最も適切なものはどれか。

わん助
ぼく3番にした!だって第三世代セファロスポリンとかフルオロキノロンって、いかにも強そうな名前じゃん。強い薬でガツンと叩けば、菌が生き残るヒマもないでしょ?
にゃるき
惜しいにゃ。「生き残るヒマもない」というところまでは考え方が合ってるにゃ。でも実際に体の中で起きるのは、そのちょうど裏返しなんだにゃ。

正解は4番です。細菌培養・薬剤感受性試験とは、感染しているところから検体を採って菌を育て、その菌にどの抗菌薬が効くかを実際に確かめる検査です。相手を確かめてから薬を選ぶ ── これが耐性菌対策のいちばんの基本になります。

選択肢3にある二次選択薬という言葉も整理しておきます。まず試すのが第一選択薬、効かなかったときに出すのが二次選択薬で、これは使う順番の話です。一方、セファロスポリンの第一世代・第三世代開発された順番で、新しい世代ほど効く範囲が広くなります。世代が新しいから先に使う、ではありません。効く範囲の広い薬をとっておくのが二次選択薬だと考えてください。

ほかの4つは、すべて耐性菌を増やしてしまう使い方です。1番の予防的な長期投与、2番のウイルス感染症への投与(抗菌薬はウイルスには効きません)、3番のいきなり効く範囲の広い薬から始めること、5番の途中でやめること。なぜこれらがいけないのかは、耐性菌がどうやって増えるかを知ると一本につながります。

耐性菌とは「正しく使っても効かなくなった菌」

まず言葉の意味からです。決められた量を正しく投与しているのに効果が認められなくなったとき、その菌は薬剤耐性を獲得したと判定され、その菌を薬剤耐性菌とよびます。

犬や猫からも実際に検出されており、代表がMRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)ESBL産生菌です。こわいのは、耐性菌がおもに接触によって伝播すること。動物病院の中や飼育家庭で動物から動物へ、そして人へも伝わります。人に伝わると、人の治療に使う薬まで効かなくなるおそれが出てきます。

だからこれは動物病院だけの話ではありません。2015年のWHO(世界保健機関)の総会で薬剤耐性に関する国際行動計画が採択され、日本でも薬剤耐性対策アクションプランが進められています。人と動物と環境をひとつづきのものとして考えるワンヘルス・アプローチの代表例が、この耐性菌対策です。

いちばん大事な勘違い ── 耐性菌は「生まれる」のではなく「残る」

ここが今日の記事の背骨です。多くの人が「抗菌薬を浴びた菌が、耐性菌に変身する」というイメージをもっています。菌が耐性のしくみを身につけること自体はあるのですが、抗菌薬を使ったときに集団で起きている主役は、それではありません

菌の集まりの中には、もともと、たまたまその薬が効きにくい菌がわずかにまじっています。そこへ抗菌薬を使うと、薬が効く菌が減っていき、効きにくい菌だけが場所を空けてもらって増えていく。この流れを起こしているのは抗菌薬を使うことそのもので、効く菌が減って耐性菌が増えやすくなるこの状況を「選択圧がかかる」といいます。

薬が効く菌 もともと薬が効きにくい菌 ① もともとの集まり 赤はごくわずかしかいない ② 抗菌薬を使う 青だけが減る・赤は平気 ③ 空いた場所で増える 効きにくい菌ばかりになる 青い菌が赤い菌に「変わった」のではない もともと少数まじっていた赤だけが生き残って増えた = 抗菌薬を使うことが「選択圧」。効く菌が減り、耐性菌が増えやすくなる

では、耐性のしくみそのものは何なのでしょうか。菌の側の守り方は、大きく4つ知られています。

入れない細胞膜が変化して、薬が菌の中に入れなくなる
くみ出す薬を菌の外へくみ出すポンプを備えるようになる
分解する薬を分解する酵素をつくれるようになる。前回でてきたβラクタマーゼがこれで、これを強力にした酵素をつくるのがESBL産生菌
おおう分泌物で自分をおおって、薬を寄せつけない

ただし、この力をもった菌が1匹いるだけでは埋もれたままです。それが集まり全体を占めるまで増えるのが選択圧。しくみを手に入れること増えて主役になることは別の話だと分けて覚えてください。

わん助
そっか!薬が菌を悪いやつに変えちゃうんじゃなくて、効かないやつだけ残しちゃうんだ。……ってことは、中途半端な使い方をすればするほど、いちばん手強いのだけが残るってこと!?
にゃるき
そこに気づけたら今日はもう合格にゃ。この一本の理屈から、そもそも相手は誰か・どの薬を・どれだけ・いつまでという4つの守りごとが全部出てくるんだにゃ。順に見ていくにゃ。

だから、切り札は温存する

効く範囲の広い薬をいきなり使うと、狙った菌だけでなく体じゅうのいろいろな菌にまとめて選択圧がかかります。しかも、その薬が効かない菌が増えてしまえば、本当に困ったときに出す薬がなくなります。「いい薬から順に使うと、いざという時に使える薬がなくなる」というのは、こういう意味です。

わん助
わかった!じゃあ耐性菌が出ちゃったときは、耐性菌専用の薬を使えばいいんでしょ?前回ならったカルバペネム系!あれが切り札だって言ってたもん、まかせて!

2問目 ── ここが今日の山場

薬剤耐性菌に特化して用いられる抗菌薬はどれか。

わん助
あれっ、選択肢にカルバペネムがない…! 前回「切り札」って教わったのがカルバペネム系だったから、まっさきにそれを探しちゃったよ。耐性菌用の薬=カルバペネム系って覚えたつもりだったのに、ちがうの?
にゃるき
いい引っかかり方にゃ!前回おぼえた「切り札」を、そのまま持ってきたんだにゃね。でもこの2つは、同じ切り札でも切り札である理由がまるで違うんだにゃ。

正解は1番のバンコマイシンです。2〜5番はいずれも日常的に使われる抗菌薬で、アモキシシリンはペニシリン系、ドキシサイクリンはテトラサイクリン系、ゲンタマイシンはアミノグリコシド系、アジスロマイシンはマクロライド系です。「強い薬かどうか」ではなく、何を相手にするための薬かで分かれます。

相手を絞る型 バンコマイシン。MRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)など、耐性をもったグラム陽性菌のために取ってある薬。飲んでも腸からほとんど吸収されないため、静脈内投与で用いる
範囲が広い型 カルバペネム系(βラクタム系の一員)。効く菌の範囲=抗菌スペクトルがきわめて広い。耐性菌専用の薬ではなく、安易に使うとかえって耐性菌が出現するため、慎重に適応を選ぶ

つまり「どちらも耐性菌に特化した薬」というまとめ方は誤りです。温存する理由が、片方は「耐性菌のための最後の一手だから」、もう片方は「広すぎて選択圧が大きいから」。同じ棚にしまってあるけれど、しまってある理由が違うと覚えてください。

わん助
あー! バンコマイシンは耐性菌にねらいをつけた薬で、カルバペネム系はなんにでも効いちゃう薬なんだ。なんにでも効くってことは……使うたびに、関係ない菌にまで選択圧をかけちゃうってことか!
にゃるき
そこまで来たら完璧にゃ。広い=安全、ではないんだにゃ。効く範囲が広い薬は、それだけたくさんの菌に選択圧をかけてしまう。いま目の前の1匹を治すことと、この先この子に使える薬を残しておくこと、その両方を考えて選ぶのが抗菌薬なんだにゃ。

正しく使うための4本柱

ここまでの理屈を、現場の守りごとに置き換えると4つになります。

まず相手確認 相手が細菌かどうかをまず確かめる。ウイルス感染症に抗菌薬は効かない。可能なら細菌培養・薬剤感受性試験で、菌の正体と効く薬を確かめてから選ぶ
せまい薬から 相手が絞れているなら、効く範囲のせまい薬から始める。範囲の広い薬は、必要になったときのために取っておく
量と期間 決められたを、決められた期間。少なすぎても途中でやめても、効きにくい菌を殺しきれないまま終わる。とくに前回みた静菌的な薬は増殖を止めているだけなので、見た目がよくなっても菌はまだ残っている。獣医師はできるだけ短い期間ですむよう決めているので、その期間は守りきる
切り札は温存 バンコマイシンやカルバペネム系は、むやみに使わない

1問目の選択肢が、この4本柱をひっくり返したものだったことに気づいたでしょうか。予防的な長期投与症状が改善したら早く中止は「量と期間」の裏返し、ウイルスへの投与は「まず相手確認」の裏返し。そしていきなり二次選択薬からは、「せまい薬から」と「切り札は温存」の2つにまたがる裏返しです。

にゃるき
さて、最後にもうひとつ。抗菌薬が減らしているのは悪さをしている菌だけではないんだにゃ。ここは動物看護師が飼い主さんからいちばん質問されるところにゃから、しっかりいくにゃ。

常在菌 ── 味方の菌まで巻き添えになる

動物の体にすむ常在菌(細菌叢)と日和見感染に関する記述として、最も適切なものはどれか。

わん助
ぼく4番! だって菌=やっつける相手でしょ? 抗菌薬でおなかの菌を減らせば、そのぶんおなかはきれいになるはずじゃん。 ……あれ、でもぼく、抗生剤のんで下痢したことある気がする…?
にゃるき
その「あれ?」がだいじにゃ。腸の菌=悪者という思い込みが、まるごと逆さまになるところなんだにゃ。

正解は1番です。皮膚・口の中・腸などには、いつも常在菌(細菌叢)という微生物の集まりがすみついています。これは邪魔者ではなく、悪い菌が住みつくのを妨げ、消化を助ける味方です。生まれた直後の消化管は無菌で、母乳や環境の影響を受けながら少しずつつくられていきます。

ここに抗菌薬を長く使うと、味方の常在菌まで減ってしまいます。バランスが崩れた結果として起こるのが下痢や嘔吐です(4番が誤りなのはこのため)。さらに、体の抵抗力が落ちているときには、ふだんは悪さをしない弱い菌でも感染症を起こすことがあり、これを日和見感染といいます。「病原性の強い菌が健康な動物に」ではないので、3番も誤りです。

ふだんの腸のかべ 常在菌がびっしり = すきまが無い 悪い菌が来ても住みつく場所がなく、消化も助けてもらえる 抗菌薬を長く使う 抗菌薬を長く使ったあと 味方の菌が減り すきまで増える 下痢・嘔吐。抵抗力が落ちていると、ふだんは悪さをしない菌でも感染症を起こす = 日和見感染 大きい橙=すきまで増えすぎた菌/小さい丸=生き残った常在菌
わん助
腸の菌って、ぎゅうぎゅうに住んでてくれるおかげで悪い菌のすきまを埋めてくれてたんだ! 抗菌薬を出すのは病気を治すためだけど、その裏で味方も減っているってことなんだね。

この巻き添えの重さは、動物の種類でまったく違います。前回の種差の表でウサギ・ハムスター・モルモットにリンコマイシン系は使えないと覚えましたが、その理由がいま見た常在菌のバランスです。これらの動物では致命的な消化器障害(腸毒血症)を起こすことがあります。「犬や猫で問題なく使えているから大丈夫」は通用しません。

覚え方のコツ

看護でどう活きるか

検体は先に 細菌培養・薬剤感受性試験の検体は、抗菌薬を始める前に採るのが原則。始めたあとでは菌が育たず、相手が最後までわからなくなる。緊急性が高く結果を待たずに治療を始めることはあるが、検体だけは先に採る。検査は院内では行えず外注で、結果はS(効く)・I(中間)・R(効かない)で返ってくる
残薬の確認 再診時に薬が残っていないかをたずねる。飲みきれていない=途中でやめた合図で、選択圧がかかったサイン。次の処方を決める材料になる
飼い主説明 「元気になったので残しました」がいちばん多い中断の理由。責めずに、途中でやめると効きにくい菌だけが残ることを伝える。飲ませにくさが理由なら、剤形や与え方の相談へつなぐ

そして、この記事のなかで動物看護師にとっていちばん自分の話になるのが手指衛生です。院内の耐性菌は、抗菌薬の適正使用だけでは17%の減少にとどまり、環境衛生を加えると31%、手指衛生の改善まで加えると66%減ると報告されています。ところが人の病院での手指衛生の遵守率は約19%とされ、動物病院ではさらに低いと予想されています。薬を選ぶのは獣医師の仕事ですが、耐性菌をいちばん減らせて、いちばんできていないのが手指衛生です。

にゃるき
最初にわん助が言った「いい薬をケチらず出すのが親切」── あれ、まちがいだけど、やさしさとしては正しいんだにゃ。飼い主さんも同じ気持ちで言ってくるにゃ。だからこの記事の中身は、そのまま飼い主さんへの説明のことばになるにゃ。「この子のために、今いちばん合う薬を、決めた日数だけ使いきりましょう」── そう言えるようになったら、もう立派な看護にゃ。よく最後まで走ったにゃ!
わん助
うん! 耐性菌は残るもの切り札は温存期間は使いきる! 手をちゃんと洗うのがいちばん効くっていうのも、なんだかうれしいな。アプリで抗菌薬と感染対策の問題、探して解いてくる〜!
※ ここに参考書のリンク枠を挿入予定
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