薬剤耐性菌の発生を防ぐための抗菌薬の慎重使用に関する記述として、最も適切なものはどれか。
正解は4番です。細菌培養・薬剤感受性試験とは、感染しているところから検体を採って菌を育て、その菌にどの抗菌薬が効くかを実際に確かめる検査です。相手を確かめてから薬を選ぶ ── これが耐性菌対策のいちばんの基本になります。
選択肢3にある二次選択薬という言葉も整理しておきます。まず試すのが第一選択薬、効かなかったときに出すのが二次選択薬で、これは使う順番の話です。一方、セファロスポリンの第一世代・第三世代は開発された順番で、新しい世代ほど効く範囲が広くなります。世代が新しいから先に使う、ではありません。効く範囲の広い薬をとっておくのが二次選択薬だと考えてください。
ほかの4つは、すべて耐性菌を増やしてしまう使い方です。1番の予防的な長期投与、2番のウイルス感染症への投与(抗菌薬はウイルスには効きません)、3番のいきなり効く範囲の広い薬から始めること、5番の途中でやめること。なぜこれらがいけないのかは、耐性菌がどうやって増えるかを知ると一本につながります。
まず言葉の意味からです。決められた量を正しく投与しているのに効果が認められなくなったとき、その菌は薬剤耐性を獲得したと判定され、その菌を薬剤耐性菌とよびます。
犬や猫からも実際に検出されており、代表がMRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)とESBL産生菌です。こわいのは、耐性菌がおもに接触によって伝播すること。動物病院の中や飼育家庭で動物から動物へ、そして人へも伝わります。人に伝わると、人の治療に使う薬まで効かなくなるおそれが出てきます。
だからこれは動物病院だけの話ではありません。2015年のWHO(世界保健機関)の総会で薬剤耐性に関する国際行動計画が採択され、日本でも薬剤耐性対策アクションプランが進められています。人と動物と環境をひとつづきのものとして考えるワンヘルス・アプローチの代表例が、この耐性菌対策です。
ここが今日の記事の背骨です。多くの人が「抗菌薬を浴びた菌が、耐性菌に変身する」というイメージをもっています。菌が耐性のしくみを身につけること自体はあるのですが、抗菌薬を使ったときに集団で起きている主役は、それではありません。
菌の集まりの中には、もともと、たまたまその薬が効きにくい菌がわずかにまじっています。そこへ抗菌薬を使うと、薬が効く菌が減っていき、効きにくい菌だけが場所を空けてもらって増えていく。この流れを起こしているのは抗菌薬を使うことそのもので、効く菌が減って耐性菌が増えやすくなるこの状況を「選択圧がかかる」といいます。
では、耐性のしくみそのものは何なのでしょうか。菌の側の守り方は、大きく4つ知られています。
| 入れない | 細胞膜が変化して、薬が菌の中に入れなくなる |
|---|---|
| くみ出す | 薬を菌の外へくみ出すポンプを備えるようになる |
| 分解する | 薬を分解する酵素をつくれるようになる。前回でてきたβラクタマーゼがこれで、これを強力にした酵素をつくるのがESBL産生菌 |
| おおう | 分泌物で自分をおおって、薬を寄せつけない |
ただし、この力をもった菌が1匹いるだけでは埋もれたままです。それが集まり全体を占めるまで増えるのが選択圧。しくみを手に入れることと増えて主役になることは別の話だと分けて覚えてください。
効く範囲の広い薬をいきなり使うと、狙った菌だけでなく体じゅうのいろいろな菌にまとめて選択圧がかかります。しかも、その薬が効かない菌が増えてしまえば、本当に困ったときに出す薬がなくなります。「いい薬から順に使うと、いざという時に使える薬がなくなる」というのは、こういう意味です。
薬剤耐性菌に特化して用いられる抗菌薬はどれか。
正解は1番のバンコマイシンです。2〜5番はいずれも日常的に使われる抗菌薬で、アモキシシリンはペニシリン系、ドキシサイクリンはテトラサイクリン系、ゲンタマイシンはアミノグリコシド系、アジスロマイシンはマクロライド系です。「強い薬かどうか」ではなく、何を相手にするための薬かで分かれます。
| 相手を絞る型 | バンコマイシン。MRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)など、耐性をもったグラム陽性菌のために取ってある薬。飲んでも腸からほとんど吸収されないため、静脈内投与で用いる |
|---|---|
| 範囲が広い型 | カルバペネム系(βラクタム系の一員)。効く菌の範囲=抗菌スペクトルがきわめて広い。耐性菌専用の薬ではなく、安易に使うとかえって耐性菌が出現するため、慎重に適応を選ぶ |
つまり「どちらも耐性菌に特化した薬」というまとめ方は誤りです。温存する理由が、片方は「耐性菌のための最後の一手だから」、もう片方は「広すぎて選択圧が大きいから」。同じ棚にしまってあるけれど、しまってある理由が違うと覚えてください。
ここまでの理屈を、現場の守りごとに置き換えると4つになります。
| まず相手確認 | 相手が細菌かどうかをまず確かめる。ウイルス感染症に抗菌薬は効かない。可能なら細菌培養・薬剤感受性試験で、菌の正体と効く薬を確かめてから選ぶ |
|---|---|
| せまい薬から | 相手が絞れているなら、効く範囲のせまい薬から始める。範囲の広い薬は、必要になったときのために取っておく |
| 量と期間 | 決められた量を、決められた期間。少なすぎても途中でやめても、効きにくい菌を殺しきれないまま終わる。とくに前回みた静菌的な薬は増殖を止めているだけなので、見た目がよくなっても菌はまだ残っている。獣医師はできるだけ短い期間ですむよう決めているので、その期間は守りきる |
| 切り札は温存 | バンコマイシンやカルバペネム系は、むやみに使わない |
1問目の選択肢が、この4本柱をひっくり返したものだったことに気づいたでしょうか。予防的な長期投与と症状が改善したら早く中止は「量と期間」の裏返し、ウイルスへの投与は「まず相手確認」の裏返し。そしていきなり二次選択薬からは、「せまい薬から」と「切り札は温存」の2つにまたがる裏返しです。
動物の体にすむ常在菌(細菌叢)と日和見感染に関する記述として、最も適切なものはどれか。
正解は1番です。皮膚・口の中・腸などには、いつも常在菌(細菌叢)という微生物の集まりがすみついています。これは邪魔者ではなく、悪い菌が住みつくのを妨げ、消化を助ける味方です。生まれた直後の消化管は無菌で、母乳や環境の影響を受けながら少しずつつくられていきます。
ここに抗菌薬を長く使うと、味方の常在菌まで減ってしまいます。バランスが崩れた結果として起こるのが下痢や嘔吐です(4番が誤りなのはこのため)。さらに、体の抵抗力が落ちているときには、ふだんは悪さをしない弱い菌でも感染症を起こすことがあり、これを日和見感染といいます。「病原性の強い菌が健康な動物に」ではないので、3番も誤りです。
この巻き添えの重さは、動物の種類でまったく違います。前回の種差の表でウサギ・ハムスター・モルモットにリンコマイシン系は使えないと覚えましたが、その理由がいま見た常在菌のバランスです。これらの動物では致命的な消化器障害(腸毒血症)を起こすことがあります。「犬や猫で問題なく使えているから大丈夫」は通用しません。
| 検体は先に | 細菌培養・薬剤感受性試験の検体は、抗菌薬を始める前に採るのが原則。始めたあとでは菌が育たず、相手が最後までわからなくなる。緊急性が高く結果を待たずに治療を始めることはあるが、検体だけは先に採る。検査は院内では行えず外注で、結果はS(効く)・I(中間)・R(効かない)で返ってくる |
|---|---|
| 残薬の確認 | 再診時に薬が残っていないかをたずねる。飲みきれていない=途中でやめた合図で、選択圧がかかったサイン。次の処方を決める材料になる |
| 飼い主説明 | 「元気になったので残しました」がいちばん多い中断の理由。責めずに、途中でやめると効きにくい菌だけが残ることを伝える。飲ませにくさが理由なら、剤形や与え方の相談へつなぐ |
そして、この記事のなかで動物看護師にとっていちばん自分の話になるのが手指衛生です。院内の耐性菌は、抗菌薬の適正使用だけでは17%の減少にとどまり、環境衛生を加えると31%、手指衛生の改善まで加えると66%減ると報告されています。ところが人の病院での手指衛生の遵守率は約19%とされ、動物病院ではさらに低いと予想されています。薬を選ぶのは獣医師の仕事ですが、耐性菌をいちばん減らせて、いちばんできていないのが手指衛生です。
続きができました。薬シリーズの完結編=抗菌薬の副作用①(前編)・②(後編)へどうぞ。そして予告していた血液塗抹の血球ずかんも公開しました ── 血球ずかん① 赤血球(前編)・② 赤血球(後編)にゃ。