にゃるき
にゃるき先生の解説コーナー
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抗菌薬の副作用② ── 内臓だけじゃない。関節・歯・血液に出るのはなぜ?

⏱ 約9分 薬のはなし2026-08-20 公開
🔎 深掘り回 第8弾:抗菌薬の副作用の後編です。前編では、細菌にだけ効くはずの薬に副作用が出る理由の原則と、1つめの抜け道=薬の出口(アミノグリコシド系の腎臓と耳)を見ました。今回は残る2つの抜け道と、副作用の地図の完成です。
わん助
前編でわかったよ! 薬は出口の腎臓に濃く集まるから副作用が出るんだよね。つまりさ、副作用ってけっきょく内臓に出るものなんでしょ? 腎臓と肝臓、あと耳。そこだけ見張っておけばカンペキだね!
にゃるき
ほほう、言い切ったにゃね。それじゃあ確かめさせてもらうにゃ。問題!

まずは問題

ニューキノロン系抗菌薬(エンロフロキサシンなど)に関する記述として、適切でないものはどれか。

わん助
ぼく3番にした! だって副作用は内臓に出るものでしょ? 関節に出るなんて聞いたことないよ。これがひっかけだと思ったんだけどな。
にゃるき
さっきの「内臓だけ見張ればカンペキ」が、さっそく引っかかったにゃね。じつは3番の関節は、本当にある副作用なんだにゃ。

正解は5番です。キノロン系が攻めるのは細胞壁ではなくDNA合成でした(系統の回のおさらい。細胞壁を攻めるのはβラクタム系です)。そして残った3番 ── 関節こそ、今日の主役です。

抜け道② 「育ちざかりの場所」に割り込む

キノロン系は若齢の犬に大量投与すると関節障害が認められたため、原則として12カ月齢未満の犬には投与しません。大人の犬では副作用がわずかな薬が、成長中の関節にだけは割り込んでしまう ── 出るかどうかを決めているのは薬の強さではなく、体の側の事情なのです。

同じ型の副作用がテトラサイクリン系にもあります。この薬は骨のカルシウムとくっつく(キレート結合する)性質があり、胎子期や新生子期に投与されると歯のエナメル質が永久に褐色に変わり、骨の成長も抑えられます。妊娠中の動物と成長期の動物では、使える薬の名簿がそもそも変わる、と覚えてください。

抜け道③ 血をつくる工場に効いてしまう

クロラムフェニコールは幅広い細菌に効き、体のすみずみまで行き渡る薬ですが、副作用として非再生性の貧血(新しい血球をつくる働きが追いつかないタイプの貧血)や、リンパ球・好中球の減少を起こすことがあります。血液の細胞をつくる働きそのものが巻き込まれる型です。さらにこの薬は肝臓で代謝されるため、肝代謝の能力が低い猫では投薬量を犬より少なくします。同じ薬でも動物種で顔つきが変わる ── 使い方の回のウサギ・ハムスター・モルモットの話と同じ構図です。

副作用は「どこに出るか」で覚える 耳(聴覚・平衡感覚) アミノグリコシド系 歯と骨 テトラサイクリン系 胎子期・新生子期は 歯が永久に褐色に 腎臓(薬の出口) アミノグリコシド系 関節(若齢犬) キノロン系・原則12カ月齢未満は× 血液(貧血・白血球減少) クロラムフェニコール
わん助
地図が完成した! 出口(腎臓と耳)、育ちざかりの場所(関節と歯と骨)、血をつくる工場。「内臓に出るもの」って思い込んでたけど、副作用は体の側の事情がある場所に出るんだね。

飲み合わせでも抜け道は広がる

もうひとつだけ。単独では安全に使えていても、ほかの薬との組み合わせで副作用が顔を出すことがあります。代表がキノロン系で、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)と併用するとけいれんが起こるとの報告があります。処方が2剤以上になったときこそ、副作用の知識の出番です。

耳と腎臓アミノグリコシド系。腎障害(最強はネオマイシン・ストレプトマイシンは蓄積せず起こりにくい)と聴覚・平衡感覚の障害。くわしくは前編
関節キノロン系。若齢犬への大量投与で関節障害 ── 原則として12カ月齢未満の犬には投与しない。NSAIDs併用でけいれんの報告
歯と骨テトラサイクリン系。カルシウムとキレート結合し、胎子期・新生子期では歯(エナメル質)が永久に褐色変性・骨の成長を抑制
血液クロラムフェニコール。非再生性の貧血・リンパ球や好中球の減少。肝代謝の低い猫では犬より減量。胎盤や乳汁に移行するため妊娠・授乳中は使えない
サルファ剤(スルホンアミド)。乾性角結膜炎(涙の量が減って目が乾く病気)の報告 ── 地図は目にも伸びる
味方の常在菌のまきぞえ(下痢など)。しくみは使い方の回・常在菌の節
🩺 現場ではこうなる ── 猫とキノロン系

臨床では、猫に高用量のエンロフロキサシンを使うと網膜の障害(視力を失うこともある)が起こりうることが知られていて、猫では決められた用量を超えないことがとくに重視されています。若齢犬の関節と同じで、「危険な薬」なのではなく相手と量を選べば安全に使える薬、というのが副作用との正しいつき合い方です。

覚え方のコツ

看護でどう活きるか

月齢と併用 キノロン系の処方が出たら月齢を思い出す。「この子、まだ1歳になっていないですよね」の一言が事故を止める。あわせて「痛み止め(NSAIDs)はいま飲んでいますか」の確認もセットで
分割調剤 クロラムフェニコールの錠剤やカプセルを分割して調剤するときは、スタッフが吸い込まないようマスクをつける。「この薬を割るときは、マスクしてからにしましょう」── 副作用の知識は、動物だけでなく自分を守る知識でもある
にゃるき
前編の最初にわん助が言った「細菌だけを攻めるなら動物は無傷のはず」── あれはまちがいじゃなくて、出発点として満点だったにゃ。そこに3つの抜け道を足したら、系統別の副作用は丸暗記じゃなくて地図になった。これで抗菌薬のはなしはおしまい。最後までよく走ったにゃ!
わん助
うん! 副作用は「どこに出るか」! 耳と腎臓、関節、歯と骨、血液! 地図で覚えたら忘れない気がしてきた。アプリで抗菌薬の問題、ぜんぶ解き直してくる〜!
※ ここに参考書のリンク枠を挿入予定
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