ニューキノロン系抗菌薬(エンロフロキサシンなど)に関する記述として、適切でないものはどれか。
正解は5番です。キノロン系が攻めるのは細胞壁ではなくDNA合成でした(系統の回のおさらい。細胞壁を攻めるのはβラクタム系です)。そして残った3番 ── 関節こそ、今日の主役です。
キノロン系は若齢の犬に大量投与すると関節障害が認められたため、原則として12カ月齢未満の犬には投与しません。大人の犬では副作用がわずかな薬が、成長中の関節にだけは割り込んでしまう ── 出るかどうかを決めているのは薬の強さではなく、体の側の事情なのです。
同じ型の副作用がテトラサイクリン系にもあります。この薬は骨のカルシウムとくっつく(キレート結合する)性質があり、胎子期や新生子期に投与されると歯のエナメル質が永久に褐色に変わり、骨の成長も抑えられます。妊娠中の動物と成長期の動物では、使える薬の名簿がそもそも変わる、と覚えてください。
クロラムフェニコールは幅広い細菌に効き、体のすみずみまで行き渡る薬ですが、副作用として非再生性の貧血(新しい血球をつくる働きが追いつかないタイプの貧血)や、リンパ球・好中球の減少を起こすことがあります。血液の細胞をつくる働きそのものが巻き込まれる型です。さらにこの薬は肝臓で代謝されるため、肝代謝の能力が低い猫では投薬量を犬より少なくします。同じ薬でも動物種で顔つきが変わる ── 使い方の回のウサギ・ハムスター・モルモットの話と同じ構図です。
もうひとつだけ。単独では安全に使えていても、ほかの薬との組み合わせで副作用が顔を出すことがあります。代表がキノロン系で、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)と併用するとけいれんが起こるとの報告があります。処方が2剤以上になったときこそ、副作用の知識の出番です。
| 耳と腎臓 | アミノグリコシド系。腎障害(最強はネオマイシン・ストレプトマイシンは蓄積せず起こりにくい)と聴覚・平衡感覚の障害。くわしくは前編で |
|---|---|
| 関節 | キノロン系。若齢犬への大量投与で関節障害 ── 原則として12カ月齢未満の犬には投与しない。NSAIDs併用でけいれんの報告 |
| 歯と骨 | テトラサイクリン系。カルシウムとキレート結合し、胎子期・新生子期では歯(エナメル質)が永久に褐色変性・骨の成長を抑制 |
| 血液 | クロラムフェニコール。非再生性の貧血・リンパ球や好中球の減少。肝代謝の低い猫では犬より減量。胎盤や乳汁に移行するため妊娠・授乳中は使えない |
| 目 | サルファ剤(スルホンアミド)。乾性角結膜炎(涙の量が減って目が乾く病気)の報告 ── 地図は目にも伸びる |
| 腸 | 味方の常在菌のまきぞえ(下痢など)。しくみは使い方の回・常在菌の節で |
臨床では、猫に高用量のエンロフロキサシンを使うと網膜の障害(視力を失うこともある)が起こりうることが知られていて、猫では決められた用量を超えないことがとくに重視されています。若齢犬の関節と同じで、「危険な薬」なのではなく相手と量を選べば安全に使える薬、というのが副作用との正しいつき合い方です。
| 月齢と併用 | キノロン系の処方が出たら月齢を思い出す。「この子、まだ1歳になっていないですよね」の一言が事故を止める。あわせて「痛み止め(NSAIDs)はいま飲んでいますか」の確認もセットで |
|---|---|
| 分割調剤 | クロラムフェニコールの錠剤やカプセルを分割して調剤するときは、スタッフが吸い込まないようマスクをつける。「この薬を割るときは、マスクしてからにしましょう」── 副作用の知識は、動物だけでなく自分を守る知識でもある |
次回は「ずかん回」、血液塗抹の血球ずかんを準備しています。今日おぼえた「貧血・白血球減少」を、こんどは顕微鏡で見分けるにゃ。