ステロイドを急にやめてはいけない理由
わん助
ねえねえ、うちに来たワンちゃん、ステロイドで痒みがピタッとおさまって元気になったんだって!じゃあ
もう治ったってことだから、薬はパッとやめちゃえばいいよね?だってお薬は少ないほうがいいんでしょ?
にゃるき
「薬は少ないほうがいい」まではその通りにゃ。でも
パッとやめるのだけは、ステロイドにかぎって
いちばんやってはいけないことなんだにゃ。しかも危ないのは、やめた
あとにゃ。まずは問題からいくにゃ。
まずは問題
プレドニゾロンに関する記述として、最も適切なものはどれか。
- 1. 抗炎症・免疫抑制作用をもち、リンパ腫や肥満細胞腫などにも用いられる。
- 2. 細菌を直接殺す抗菌薬である。
- 3. 長時間型に分類され、作用は48時間ほど続く。
- 4. 血液を固まりにくくする抗凝固薬である。
- 5. 注射薬のみで、経口投与はできない。
わん助
ぼく3番にした!だってステロイドって
すごく効く薬でしょ?よく効く薬は長く続くんじゃないの…?あれ、ちがうの!?
にゃるき
正解は
1番にゃ。惜しいところを突いてるにゃ ──
「よく効く」と「長く続く」は別のものさしなんだにゃ。プレドニゾロンは真ん中の
中時間型にゃ。
1抗炎症・免疫抑制作用をもつ:これが正解。炎症をしずめ、免疫のはたらきを抑える。リンパ腫や肥満細胞腫など腫瘍の治療にも組み込まれる。
2抗菌薬:細菌を直接たたくのはアモキシシリンなどの抗菌薬。ステロイドはむしろ免疫を抑えるので、方向が反対。
3長時間型で48時間:48時間ほど続くのは長時間型のデキサメタゾン。プレドニゾロンは中時間型で、ここが入れ替わっている。
4抗凝固薬:血液を固まりにくくするのはヘパリンなど。別の薬の説明。
5注射薬のみ:実際は点眼薬・点耳薬・注射薬・飲み薬(経口投与)と剤形が広い。この「剤形の広さ」が、あとで大事な話につながる。
ステロイドは「効きめの長さ」で3つに分かれる
副腎皮質ステロイド薬(副腎皮質ホルモン剤)は種類が多いのですが、作用が続く時間で3つのグループに分けると一気に整理できます。
| 短時間型 |
コルチゾン、ヒドロコルチゾン ── 作用の持続は12時間未満 |
| 中時間型 |
プレドニゾロン、トリアムシノロン ── いちばんよく使われるグループ |
| 長時間型 |
デキサメタゾン、ベタメタゾン、パラメタゾン ── デキサメタゾンは48時間ほど続く |
同じ「ステロイド」でも、ヒドロコルチゾンとデキサメタゾンでは効いている時間が4倍以上違います。そして1mgあたりの効きめの強さも、薬によって別々に決まっています。だから薬を入れ替えるときに量だけを同じにしても、同じ効果にはなりません。「どれだけ強いか」と「どれだけ長いか」は、最後まで別のものさしとして扱ってください。ここは試験でもよく狙われるところです。
体は「薬のステロイド」と「自前のコルチゾール」を見分けられない
ここから本題です。前回の3階建てを思い出してください。副腎皮質からコルチゾールが出ると、それが視床下部と下垂体前葉に戻って「もう十分」と伝えるのでした。
では、薬としてステロイドを飲ませたら、体はどう受け取るでしょうか。
体には、それが薬なのか自分で作ったものなのかを区別する手段がありません。血液の中にステロイドがたっぷりあるのを見て、「よし、もう十分にある」と判断します。すると──
薬のステロイドが入ると「もう十分」の合図が出て、指令が止まり、副腎皮質が使われないままやせ細っていく。
視床下部からのCRH(副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモン)、下垂体前葉からのACTH(副腎皮質刺激ホルモン)という指令が止まります。指令が来なくなった副腎皮質は仕事がなくなり、使われない筋肉がやせるのと同じようにだんだん萎縮していきます(機能性萎縮)。飼い主さんから見れば「薬がよく効いて元気」なあいだに、体の中ではこれが静かに進んでいます。
わん助
え、じゃあ副腎さんはサボってるだけだよね?薬をやめたら「はーい、仕事再開でーす」ってすぐ戻るんじゃないの?
にゃるき
そこがこの回のいちばん大事なところにゃ。
やせ細った副腎は、すぐには戻らないにゃ。だから薬を一気に抜くと、
薬もない・自前もないという空白ができてしまうんだにゃ。
だから「急にやめてはいけない」
この空白を絵にすると、ひと目でわかります。
急にやめると、必要量に届かない赤い帯ができる。少しずつ減らせば合計は必要量を下回らない。図はいずれも当サイト作成。
上の図が急にやめた場合です。薬をぱたりと止めた瞬間、青い部分(薬から来ていた分)がゼロになります。ところがオレンジの部分(自分で作る分)はまだ回復していないので、合計が体に必要な量を下回ってしまいます。これが医原性の副腎皮質機能低下症です。「医原性」とは、病気そのものではなく治療(この場合は薬)が原因で起きた、という意味です。元気がない、食欲がない、ぐったりする、ひどいときはショックに至ることもあります。
下の図が少しずつ減らした場合です。薬を減らすと「もう十分」の合図が弱まり、止まっていた指令が戻り、副腎が少しずつ働きはじめます。薬が減っていくペースと、自前が戻ってくるペースを合わせるので、合計が必要量を割りません。
これが漸減(ぜんげん)です。「もったいぶって減らしている」のではなく、副腎が目を覚ます時間をかせいでいるのです。中時間型のプレドニゾロンなどでは、1日おき(隔日投与。カルテでは “eod” と書かれます)に切り替えながら減らしていく方法もとられます。
副腎皮質ホルモン剤を使うときの注意点は、漫然と使わない(なんとなく続けない)ことと、突然中止しないことの2つに集約されます。
もうひとつ、急にやめると起きること
足りなくなるだけではありません。急にやめると血液中のステロイドが正常値より低くなり、おさまっていた炎症がぶり返します。これをリバウンドといいます。
わん助が最初に言っていた「痒みがピタッとおさまった」を思い出してください。飼い主さんが自己判断で薬を止めたとき、まっさきに目にするのは痒みや炎症のぶり返しです。「せっかく治ったのに、また悪くなった」と見えるわけですが、実際には治っていたのではなく、薬で抑えていたのです。
2問目 ── ここが今日の山場
犬猫に用いる副腎皮質ステロイド薬に関する記述として、最も適切なものはどれか。
- 1. 長期投与では医原性クッシング症候群を生じるリスクがあり中止時は漸減する必要がある。
- 2. 犬の急性副作用として血糖低下と食欲不振が特徴的である。
- 3. 細菌感染症治療の第一選択薬として全身投与する。
- 4. プレドニゾロンとデキサメタゾンは同一用量で同等の抗炎症効果を示す。
- 5. 長期投与後は用量を減量せず一気に中止する方が安全である。
わん助
5番はもうダマされないぞ!さっきの図の
足りないところだ!…でも待って、2番の「血糖が下がる」って、なんとなくありそうな気がしちゃう…。
にゃるき
そこもよく間違えるにゃ。ステロイドは
血糖を上げるほうにゃ。前回、コルチゾールは「血糖を上げるホルモン」として出てきたのを思い出してほしいにゃ。
自前でも薬でも、はたらきは同じにゃ。
わん助
そうか、薬でも中身は
コルチゾールと同じなんだ!だから多飲多尿になるのも、おなかが張ってくるのも、コルチゾールが多すぎる子と同じことが起きるんだね!
1長期投与で医原性クッシング症候群、中止時は漸減:これが正解。長すぎても急にやめても困る、という薬の性格がこの1文に入っている。
2血糖低下と食欲不振:逆。犬では多飲多尿・多食・腹囲膨満・肝臓の数値(ALPなど)の上昇が典型で、血糖はむしろ上がる。なお足りなくなったときには逆に低血糖がみられる ── 「薬の副作用としては上がる」「足りない病気では下がる」と向きで整理する。
3細菌感染症の第一選択:免疫を抑える薬なので、細菌感染症の第一選択は抗菌薬。感染がある場面ではむしろ慎重に扱う。
4同一用量で同等の効果:作用の強さも持続時間も薬ごとに違う。デキサメタゾンの持続は48時間ほど。
5一気に中止するほうが安全:ここが本日の主役。急な中止で医原性の副腎皮質機能低下症を招く。
反対に、使い続けるとどうなる?
急にやめるのが危ないなら、ずっと続ければいいかというと、そうもいきません。ステロイドが多い状態が続くと、体はコルチゾールが過剰な病気とそっくりな状態になります。それが医原性クッシング症候群です(医原性副腎皮質機能亢進症ともいいます)。
| 長すぎると |
医原性クッシング症候群 ── 多飲多尿、多食、腹囲膨満(おなかが張って見える)、肝臓が腫れる、感染しやすくなる、傷が治りにくくなる、皮膚が薄くなる・脱毛 |
| 急にやめると |
医原性の副腎皮質機能低下症 ── 元気・食欲の低下、ぐったり、重ければショック |
つまりステロイドは「長すぎてもダメ、急にやめてもダメ」という、両側に崖のある道を歩く薬です。だからこそ、必要な量を必要な期間だけ使い、やめるときは坂道を下りるように減らします。
副腎の薬は「向き」を間違えない
ここまでで、副腎の病気には多すぎるものと足りないものの2方向があると分かりました。薬もその2方向に対応しています。
わん助
副腎の薬でしょ?ぜんぶ副腎に効くんだから、
どれを使っても副腎の病気ならなんとかなるんじゃないの?名前がむずかしいだけだよね!
犬の副腎皮質疾患とその治療に関する記述として、適切でないものはどれか。
- 1. クッシング症候群(副腎皮質機能亢進症)ではホルモンが過剰になる。
- 2. クッシング症候群では多飲多尿や腹囲膨満がみられる。
- 3. トリロスタンはコルチゾールの産生を抑える。
- 4. フルドロコルチゾンは不足するホルモンを補う。
- 5. アジソン病ではトリロスタンでコルチゾールをさらに抑える。
1クッシング=過剰:正しい。副腎皮質機能亢進症ともいう。
2多飲多尿や腹囲膨満:正しい。腹囲膨満は「おなかが張って見える」状態で、よく見られる症状。
3トリロスタン=抑える:正しい。多すぎるコルチゾールの産生を抑える薬。
4フルドロコルチゾン=補う:正しい。足りないホルモンを補う薬。
5アジソン病にトリロスタン:これが「適切でない」。アジソン病とは副腎皮質機能低下症のこと。つまり足りない病気なのに、抑える薬を使うことになり向きが正反対。足りないなら補う。ちなみに、この記事で見てきた「急な休薬で起こること」は、薬でつくってしまったアジソン病と考えると一本につながる。
にゃるき
覚え方はシンプルにゃ。
過剰には抑える薬、不足には補う薬。病名と薬をバラバラに暗記するより、この
向きで結んだほうが確実にゃ。
わん助
多すぎるか、足りないか。まずそこを見ればいいんだ!
アジソン病にトリロスタンなんて、足りない子からさらに取り上げちゃうことになるもんね…!
点眼薬や点耳薬でも起こる
最後に、実際の現場でとても大事な話をひとつ。「全身に効く薬」というと飲み薬や注射を思い浮かべますが、点眼薬や点耳薬であっても、長期間使えば全身性の副作用が起こることがあります。目や耳に垂らした薬も、吸収されて体をめぐるからです。
「目薬だから大丈夫」「耳の薬だから関係ない」と考えてしまうと、ここを見落とします。投与経路にかかわらず、漫然と使わないという原則は同じです。
覚え方のコツ
- 体は薬と自前を見分けられない:血液中にステロイドがあれば、出どころに関係なく「もう十分」と判断する。ここが全部の出発点。
- やめるときは坂道:崖から飛び降りるのではなく、副腎が目を覚ます時間をかせぎながら下りる ── これが漸減。
- 両側に崖:長すぎれば医原性クッシング症候群、急にやめれば副腎皮質機能低下症とリバウンド。どちらにも落ちない道を歩く薬。
- 向きで結ぶ:過剰には抑える薬(トリロスタン)、不足には補う薬(フルドロコルチゾン)。
- 強さと長さは別のものさし:プレドニゾロンは中時間型、デキサメタゾンは長時間型で48時間ほど。
- ワナに注意:点眼薬・点耳薬でも全身性の副作用は起こる。「目薬だから大丈夫」は通らない。
看護でどう活きるか
| 飼い主さんへの説明 |
「よくなったから」と自己判断でやめないでくださいと必ず伝える。理由まで話せると納得してもらいやすい |
| 減量中の観察 |
元気・食欲の低下、ぐったりしていないか。減らしている最中の小さな変化に、いちばん近くで気づけるのが看護スタッフ |
| 長期投与中の観察 |
飲水量、尿量、体重、食欲。ふだんより水を飲む量・尿の量が増えていたら副作用のサインと考える |
| ワクチンの可否 |
免疫のはたらきが抑えられているため、ステロイドの治療中はワクチン接種を行わないのが原則。受付で予約の相談を受けたときに気づける |
| 残薬の確認 |
指示どおりに減らせているか。飲ませ忘れや自己中断が起きていないか |
にゃるき
最初のわん助の「元気になったからやめちゃえ」、あれは
飼い主さんが本当に言うせりふにゃ。だからこそ、理由を知っている人が止められるんだにゃ。
「もう十分」の合図ひとつで、漸減も医原性クッシングも点眼薬の話も、ぜんぶつながったにゃ。よく最後まで走ったにゃ!
わん助
ぼくが最初に言ったこと、あぶなかったんだね…!でも
坂道みたいに下りるって覚えたから、もう間違えないよ。副腎さんが目を覚ますまで待つんだ!アプリで薬の問題やってくる〜!
※ ここに参考書のリンク枠を挿入予定
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