ホルモンとフィードバック ─ 出しすぎない仕組み
わん助
ホルモンの出どころはバッチリ覚えたよ!…でもさ、体って賢いから、ホルモンが増えてきたら
「その調子!もっと出せ!」って応援するんでしょ?だって体が必要としてるってことだもんね!
にゃるき
気持ちはわかるにゃ〜。でも体が本当にやっているのは
まるで逆なんだにゃ。増えてきたら「
もう十分、止めて」と伝える。これがホルモン調節の基本にゃ。まずは問題でどうぞ。
まずは問題
図のAの名称として適当なものはどれか。
コルチゾール分泌の調節。赤い矢印2本がA。
- 1. ネガティブ効果
- 2. 正のフィードバック
- 3. 負のフィードバック
- 4. ホメオスタシス
- 5. アップレギュレーション
わん助
ぼくは2番の「正のフィードバック」にしたよ!だって矢印が上に戻ってるから、上の人たちに「がんばれー!」って伝えてるんじゃないの…?あれ、違うの!?
にゃるき
正解は
3番の負のフィードバックにゃ。戻っている矢印は「がんばれ」じゃなくて
「もうストップ」の合図なんだにゃ。エアコンを思い出してほしいにゃ。
1ネガティブ効果:そういう用語はない。「ネガティブ(負の)」につられないように。
2正のフィードバック:変化をさらに強める方向のしくみ。方向が逆。あとで実例を紹介する。
3負のフィードバック:これが正解。増えたホルモンが自分を作らせている側(上流)を抑えて、分泌を一定に保つ。
4ホメオスタシス:体内環境を一定に保つはたらき全体を指す言葉。負のフィードバックはホメオスタシスを実現する仕組みの1つで、指しているものの大きさが違う。
5アップレギュレーション:ホルモンを受け取る側の受容体の数が増える現象を指す別の用語。
エアコンで考えるとわかる
暖房のきいた部屋を想像してください。設定温度に届いたとき、エアコンはどうしますか。
| もし「もっと暖める」なら |
部屋はどんどん暑くなり、際限がなくなる ── これが正のフィードバックの向き |
| 実際は「運転を弱める」 |
温度が一定に保たれる ── これが負のフィードバック |
体のホルモンもまったく同じ考え方です。血液中のホルモンが増えてきたら、そのホルモンを作らせている上の階(上流)に「もう十分」と伝えて減速させる。だから濃度が一定の範囲におさまります。わん助のように「必要だからもっと出す」と考えると、ホルモンは出っぱなしになって体を壊してしまいます。
基本の形は「3階建て」
ホルモンの調節は、多くが視床下部 ― 下垂体 ― 末梢の内分泌腺という3階建てで動いています。上から順に指令が下り、いちばん下でできたホルモンが上の2つに戻って抑える。この形さえつかめば、細かい名前は後から入ります。
ホルモン調節の基本形。青い矢印が下向きの指令、赤い矢印が下からの「もう十分」の合図(負のフィードバック)。この形は「視床下部―下垂体―末梢内分泌系」とよばれる。
にゃるき
ここがコツにゃ。
この3階建てにのっている系統では、名前は「どの階のものか」で決まる。視床下部から出るのは「〜刺激ホルモン
放出ホルモン」、下垂体前葉から出るのは「〜
刺激ホルモン」。いちばん下が実際に働くホルモン本体にゃ。
にゃるき
ただし例外もあるにゃ。視床下部には「放出
抑制ホルモン」もあるし、下垂体前葉の
成長ホルモン(GH)とプロラクチンは下の階への指令ではなく体に直接はたらく。ここは別枠で覚えるにゃ。
2つの代表例を並べてみる
国家試験でよく問われるのは副腎皮質(コルチゾール)と甲状腺の2系統です。3階建てに当てはめると、まったく同じ形をしています。
| 階 |
副腎皮質の系統 |
甲状腺の系統 |
視床下部 (放出ホルモン) |
副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモン (CRH) |
甲状腺刺激ホルモン放出ホルモン (TRH) |
下垂体前葉 (刺激ホルモン) |
副腎皮質刺激ホルモン (ACTH) |
甲状腺刺激ホルモン (TSH) |
| 末梢の内分泌腺 |
副腎皮質 → コルチゾール |
甲状腺 → サイロキシン(T4) トリヨードサイロニン(T3) |
| いちばん下から戻る合図 |
どちらも負のフィードバックで上の2階を抑える |
コルチゾールの図と見比べると、名前が違うだけで形はまったく同じとわかる。図はいずれも当サイト作成。
わん助
あっ、ほんとだ!CRHとTRH、ACTHとTSH…名前は違うけど
置き場所が同じなんだ!ひとつ覚えれば、もうひとつも同じ形で入るね!
検査値の読み方 ─ なぜ「低下症なのにTSHが高い」のか
この3階建てがわかると、検査値がなぜその動きをするのかが説明できるようになります。甲状腺機能低下症を例に見てみましょう。
甲状腺そのものが弱ってT4が減ると、下から上への「もう十分」という合図が届かなくなります。すると上流はどうするか ── 「足りないぞ、もっと作れ」と指令を強める。だから下垂体前葉から出るTSHはむしろ増えるのです。
| 状態 |
T4 (本体) |
TSH (指令) |
理由 |
甲状腺そのものが弱った (原発性の甲状腺機能低下症) |
低い |
高い |
抑える合図が届かず、上流ががんばって指令を増やす(この組み合わせが典型的) |
甲状腺ホルモンが多い (甲状腺機能亢進症・猫に多い) |
高い |
低い |
「もう十分」の合図が強く届き、上流が指令を止める |
にゃるき
丸暗記だと「低下症なのにTSHが高い」で混乱するにゃ。でも
3階建ての向きで考えれば当たり前だにゃ。
本体が減れば指令は増える。本体が増えれば指令は減る。シーソーだと思えばいいにゃ。
この「もう十分」の考え方は、薬としてステロイドを使うときにそのまま効いてきます。詳しくは続編のステロイドを急にやめてはいけない理由へ。
3階建てを通らないホルモンもある
すべてのホルモンが視床下部から指令を受けているわけではありません。膵臓のランゲルハンス島から出るインスリンとグルカゴンは、下垂体を通らず、血液中のブドウ糖の濃度を直接感じて分泌が変わります。ここも問題で確かめましょう。
血糖値を調節するホルモンに関する記述として、最も適切なものはどれか。
- 1. 血糖値を下げる働きをもつホルモンはインスリンだけである。
- 2. 血糖値を上げる働きをもつホルモンはグルカゴンだけである。
- 3. インスリンは血糖値が下がったときに分泌が増える。
- 4. グルカゴンは血糖値が上がったときに分泌が増える。
- 5. 糖質コルチコイドは血糖値を下げる。
1下げるのはインスリンだけ:これが正解。膵臓のランゲルハンス島B細胞(β細胞)から分泌される。
2上げるのはグルカゴンだけ:誤り。糖質コルチコイド・アドレナリンなど複数ある。
3インスリン:血糖値が上がったときに分泌が増える。向きが逆。
4グルカゴン:血糖値が下がったときに分泌が増える。向きが逆。
5糖質コルチコイド:血糖値を上げる。
わん助
ぼく3番にしちゃった…。インスリンは「血糖を下げる係」だから、
血糖が下がったときに出るのかと思って…!あれ、逆なの!?
にゃるき
ここも「打ち消す向き」で動いているにゃ。上がったら下げる、下がったら上げる ──
負のフィードバックの考え方そのものにゃ。ただし
インスリンとグルカゴンの司令塔は視床下部ではなく血糖そのもの。3階建てを通らない直通ルートにゃ。逆に、血糖を上げるほうの
糖質コルチコイドはさっきの3階建てから来ている。同じ血糖の話でもルートが2本あるんだにゃ。
わん助
そっか、
上がったから下げに行くんだ!ここも「もう十分」と同じ考え方なんだね!
そして注目してほしいのが、上げる手段は複数あるのに、下げる手段はインスリン1つしかないという非対称です。血糖が下がりすぎると脳がすぐ働けなくなるため、体は上げる仕組みを何重にも用意しているのです。逆に下げる役はインスリン1つきりなので、そこが崩れると血糖は上がりっぱなしになる ── これが糖尿病です。看護の現場で低血糖が強く警戒されるのは、体が何重にも守ってなお下がってしまった状態だから、と考えるとつながります。
では「正のフィードバック」はどこで働く?
ここまで負のフィードバックばかり見てきましたが、体には変化をさらに強める正のフィードバックもあります。代表例が分娩のときです。
下垂体後葉からオキシトシンが分泌されると子宮が収縮します。その収縮で産道が刺激されると、さらにオキシトシンが分泌される。これを繰り返して収縮はどんどん強まり、出産にいたります。「一定に保つ」のではなく「一気にやりきる」場面で使われる仕組みだと考えるとわかりやすいでしょう。
|
負のフィードバック |
正のフィードバック |
| 向き |
変化を打ち消す |
変化をさらに強める |
| 目的 |
一定に保つ |
一気に完了させる |
| 代表例 |
コルチゾール・甲状腺ホルモンの調節 |
分娩時のオキシトシン |
| 体での多さ |
こちらが大多数 |
少数派(だから試験に出る) |
覚え方のコツ
- まずエアコン:増えたら止める、減ったら動かす。これが負のフィードバック。「がんばれ」ではなく「もう十分」。
- 名前は階で決まる(3階建てにのっている系統に限る):視床下部=「〜刺激ホルモン放出ホルモン」、下垂体前葉=「〜刺激ホルモン」、いちばん下=ホルモン本体。CRH/TRH、ACTH/TSH は置き場所が同じ。※下垂体前葉から出る成長ホルモン・プロラクチンは刺激ホルモンではなく、直接はたらく側。
- 検査値はシーソー:本体が減れば指令(TSH・ACTH)は増える。原発性の甲状腺機能低下症で「T4低いのにTSH高い」が典型。
- 血糖はルート2本:直通(インスリン・グルカゴンは血糖そのものを感知)と3階建て経由(糖質コルチコイド)。下げるのはインスリン1つだけ、上げるのは複数。
- 正のフィードバックは少数派。分娩時のオキシトシンを覚えておけば十分。
- ワナに注意:ホメオスタシスは「一定に保つはたらき全体」の名前。負のフィードバックはその手段の1つで、同じ言葉ではない。
にゃるき
ここまで読めたら、冒頭の図のAはもう迷わないはずにゃ。
「もう十分」の合図ひとつで、検査値も血糖も分娩も、ぜんぶ同じ考え方でつながったにゃ。これが深掘り回のねらいにゃ!
わん助
「もっと出せ」じゃなくて「もう十分」!ぼく、逆に覚えてたなんて恥ずかしいけど、おかげでスッキリしたよ〜。アプリで内分泌の問題、解き直してくる!
※ ここに参考書のリンク枠を挿入予定
関連ページ
甲状腺の検査値や血糖の問題もアプリに収録しているにゃ。